西武ライオンズ、最下位からの快進撃~人が育ち、チームが動く “しなやかな強さ”の組織変革論
2024年、西武ライオンズはパ・リーグで48勝91敗4分、勝率.345という球団ワーストの成績で最下位に沈みました。
大した補強もなく、看板選手は流出──誰もが「低迷は続く」と思った2025年、チームは一転、堂々2位を走る快進撃を見せています。
奇跡の快進撃。
その裏にあるのは、“人の力を信じ、関わり方を変えることで、力を引き出す”という組織改革の本質です。
つまり、何かを加えたのではなく、「今ある力の引き出し方」を変えたということ。ここにこそ、ビジネス組織に通じる深い学びがあります。
【問い①──変えるべきは人材よりも、まずリーダーの関わり方だ】首脳陣の刷新が、変革の第一歩
注目すべきは、選手ではなく監督、コーチ陣の大幅入れ替え。
これは企業でいえば、経営陣の交代に等しい抜本的変革です。
組織変革の鍵は「現場を動かす人、つまりリーダー」を変えることであり、それは単なる肩書きの変更ではなく、思考・関与・姿勢のすべてを刷新することに他なりません。
西口文也監督は、3年間の二軍指導を経てトップに就任。
「変えるべきは人材ではなく、関わり方だ」と言わんばかりに、現場の空気、指導スタイル、育成の観点を抜本的に見直しました。
とはいえ、ライオンズ一筋で育った監督が全体を客観視し変革を実行するには限界があります。
だからこそ、西口監督は“外部の視点”を持つ鳥越裕介ヘッドコーチを招聘しました。
これは、企業における外部コンサルタントの活用に通じるアプローチであり、自組織では気づきにくいボトルネックや可能性に新たな光を当てる意味を持ちます。
鳥越コーチは、現役時代に中日やソフトバンクでプレーし、引退後は育成の名手として複数球団で実績を積んだ人物。
西武では、選手だけでなく裏方スタッフにも声をかけ、徹底して「関係づくり」に取り組む姿勢が際立っています。
ある試合前、三塁守備練習中の外崎選手の“ちょっとした迷い”を見逃さず、即座に声をかけてアドバイスを送る──その鋭い観察眼としなやかな関わり方が、現場の信頼を集めているのです。
【問い②──人は本当に変わらないのか?】考え方と関わり方が変われば、人は変わる
選手を入れ替えたわけではありません。変わったのは、選手の“マインド”です。
マインドが変わると、行動が変わる。行動が変われば、結果が変わる。
西武の快進撃は、まさにこの連鎖の証明です。
同じ選手でも、関わり方が変われば力を発揮する。 これは現場からの偶然ではなく、リーダーの構えの変化によって起こる必然です。
人は育てるものではなく、育つものであり、その環境を整えるのがマネジメントの本質。
西武の事例は、この普遍的な原則を現場で証明してくれています。
・観察力──強みに目を凝らし、可能性を見出す。 ただ結果や数字を見るのではなく、何がその背景にあるのかを見抜く視点。選手の迷いや変化の兆しを拾い上げる“目”が、真の育成には不可欠です。
・関係構築力──信頼と競争を共存させるコミュニケーション。 仲良しグループではなく、真剣勝負のなかに信頼があるチームこそ強い。言葉を尽くし、時には厳しく問いかけながらも、根底にあるのは「信じている」というメッセージ。
・振り返り力──失敗を学びに変える内省の習慣。 重要なのは、成功か失敗かを分けることではなく、「振り返ること」によって失敗が成長へと変わるという姿勢。すなわち、成功と成長しか存在しないという前向きな文化を築くことが、組織の底力を養います。
西口監督と鳥越コーチは、まさにこの3つを武器に、選手たちのポテンシャルを“再定義”しました。
【問い③──世代は分けるべきか、つなげるべきか?】若手とベテラン──共存ではなく融合へ
若手には「任される責任」を、 ベテランには「託される誇り」を。
年齢やキャリアで線を引くのではなく、役割と影響力で結び直す。 これが真の“融合”です。
中村剛也・栗山巧といった功労者たちを精神的支柱に据えながら、若手には主体的な挑戦の場を与える。こうした世代間の相互尊重と協働関係が、チームの推進力を生み出しています。
個人の強さより、つながりのしなやかさ。
世代を超えた信頼が築かれたとき、組織は一つの生命体として動き出すのです。
【問い④──本当に変えるべきは誰か?】経営者への示唆──組織は、“人の関わり方”で生まれ変わる
「モノ」と「カネ」は有限。だが、人の成長は無限。
そして、成長を引き出すのは“経営者の関わり方”です。
- 部下を“過去の評価”で見ていないか?
- 育たないのではなく、“育て方”が問われていないか?
- 信頼と問いを通じて、自ら考える土壌をつくれているか?
人は関わり方で伸び、信じられ方で変わる。
だからこそ、経営者の関わり方次第で、組織の未来は大きく変わっていくのです。
西武ライオンズの快進撃は、「変わったのは選手ではなく、関わり方だった」
── そう言い切れる“育成経営”の成功事例です。
そして何より、それは「すぐに変えられる何か」ではなく、「今ここから始められる関わり方」の再構築に他なりません。
もちろん、シーズンはまだ序盤。今の好調がこの先どう展開するかは予断を許しません。
──それでも、この変革が“確かな土台”となり、やがて持続的な成果をもたらすことを、強く信じてやみません。