勘と度胸の昭和劇場
昭和の経営を語るとき、よく引き合いに出されるのが 「KDD(勘・度胸・努力)」 や
「KKD(勘・経験・度胸)」 です。
細かい計画よりも「えいや!」の仕入れ、資金繰りも「まあ度胸だ」で突っ走る。
あとは従業員と一緒に汗をかいて売り切る
──そんな豪快さが許されたのは、モノが不足し、多少の見込み違いでも需要が吸収してくれたからです。
つまり昭和は「勘と度胸が数字に勝った時代」。
多少の無茶も、景気の追い風が帳尻を合わせてくれました。
けれども令和の今は真逆。
モノは溢れ、競争は激化。
勘と度胸だけの仕入れは、そのまま在庫リスクへと直結します。
倉庫と冷蔵庫の発掘品
実際に私が関わった魚介卸の会社でも、倉庫からなんと! 7年前の在庫 が出てきました。
帳簿上は立派な資産でも、実物は値段がつかない“冷凍遺跡”。
「珍しい魚を見ると、つい仕入れたくなるんですよ」と社長。
仕入れは勘と度胸、でも売る努力は不足。
まさに 変則KDD経営 でした。
しかも取引先は地元の一流ホテルや料亭。
刺身にはならなくても、煮物や焼き物で濃い味をつければ……
消費者にはほとんど気づかれません。
そう考えると、高級宿の食事でも妙に想像が働いてしまうのです。
家計簿と献立が教えるDDD
では令和の経営に必要なものは何か。
それが 「DDD」──Data・Design・Diversity です。
- Data(データ)
家計簿をつけると「お金の出口」がはっきりします。
仕入れや販売も、気分ではなく数字を見て判断することが大切です。
売れ筋・死に筋・回転率──データは正直に経営を映し出します。
- Design(工夫)
スーパーで「今夜はカレーに!」と書かれたPOPを見ると、つい手が伸びます。
同じ商品でも、見せ方ひとつで売れ方は変わる。
冷蔵庫の余り物でも「今日のシェフのおすすめ!」と銘打てば夕飯が特別に見える──その感覚を経営にも活かすのです。
- Diversity(多様性)
献立を考えるとき、家族全員の意見を聞いた方が食卓は豊かになります。
経営も同じで、社長ひとりの思いつきより、社員や異業種の視点が混じった方が強い。「珍しい魚を仕入れたい社長」にブレーキをかけられるのは、別の視点だからです。
つまりDDDは、在庫を減らすためのテクニックではなく、意思決定を健全に保つレシピです。
ごまかせないのは胃袋より通帳
在庫は帳簿のうえでは立派な“資産”に見えます。
けれども、それは売れてはじめてお金になるもの。
倉庫に山積みされているだけでは、現金は一円も戻ってきません。
むしろ仕入れや保管で、お金は出ていく一方です。
決算は在庫で飾れても、通帳の残高は飾れない。
胃袋は濃い味でごまかせても、キャッシュフローの現実はごまかせないのです。
**ここだけの話**
ホテルや飲食店のバックヤードで「○○海産」の配達車や発泡スチロール箱を見かけたら、私は魚料理を注文しません。
それが、私のDDD判断です(笑)。