2025.08.04

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“秋の風”が、まだ暑い。──暦と体感のすれ違い


先日、7月下旬にセミナーを開催した折、

ふと話題に出したのが「暦のうえの季節」についてでした。

まもなく迎える8月7日は、二十四節気では「立秋」、そして七十二候では「涼風至(すずかぜいたる)」──

盛夏のさなかに、ひとすじの涼しい風が立ちはじめる頃とされています。

 

……とはいえ現実の体感は、まだまだ「熱風至」と呼びたくなるような連日沸騰状態。

風は吹けどもぬるく、木陰でさえ汗が引かない。

暑さというより“熱さ”がまとわりつき、涼風の便りなど、どこか遠い国の話のようです。

そんな日常に「秋です」と言われても、心の準備がなかなか追いつきません(笑)。

 

季節の一粒に、風を込めて──和食店主の感性

セミナー修了の数日後、8月朔日。

姶良市の行きつけの和食料理店を訪れたときのことでした。

店頭のディスプレイに、涼やかな和菓子が一つ、そっと飾られていたのです。

 

 

「今日は“大暑”に合わせた和菓子です。24節気に合わせて、24種類の創作をしているんですよ」

 

 

 

店主の口調は穏やかで、けれど奥にある感性の深さに、思わず感嘆。

この“微妙な季節感”を菓子で表現しようとする姿勢の素晴らしさ!

この店主の感性が、料理の斬新なアイデアと繊細な味付けに見事に表れているのは、言うまでもありません。

 

季節のほんの小さな移ろいを、目と舌の両方で“感じさせてくれる”料理──

それこそが、この店の静かな魅力です。

 

 

つい調子に乗って「72候分も作ってみては?」と無茶ぶりしてみたら、

店主は苦笑しながら「それはちょっと…」と首をすくめていました。

けれど、そのやりとりそのものが、季節という“言葉”を通した、ささやかで心地よい風のような会話でした。

 

ひと言が、心に風を通す。─“涼風至”という芸名?

 

言葉には、風を通す力があります。

先ほどのセミナーでも、そんな瞬間がありました。

私がふと、「八月に入れば、まもなく“涼風至”の頃ですね」と話したとたん、

 

ある女性参加者が目を輝かせ、前のめりに反応してくれたのです。

 

「えっ、“涼風至(スズカゼイタル)”?

……まるで宝塚のトップスターみたいな名前じゃないですか!」

 

(実は彼女、筋金入りの宝塚ファン)

 

 

セミナー終了後のアンケートには、こんな一言が添えられていました。

 

「私、これからの芸名、涼風至(スズカゼイタル)にします!(笑)」

 

芸名??

思わず吹き出してしまいましたが、同時に──

 

言葉ひとつが、誰かの心にふっと届く場面に立ち会えた気がしました。

 

通常のセミナーアンケートでは、こうしたくだけたフレーズは珍しいもの。

 

でも、私のセミナーは

「自由に発言していい」「どんな言葉も歓迎される」

そんな安心・安全・ポジティブな場を目指しているからこそ、その一言が自然と生まれたのだと思います。

 

誰かの中に、ふと風が吹き抜けるような瞬間。

それは、こちらの意図を超えて、思いがけず起こるものなのかもしれません。

 

72通りの“言葉の風”を、あなたのそばに。

 

ふだん私たちは、
言葉を「伝える手段」として使いがちです。

 

しかし、言葉にはそれ以上の力があります。
誰かの心に、そっと風を吹き込むような、そんな力です。

「今日は、風が通ってるね」
「その言葉、なんだか涼しいですね」

そんなやり取りが自然に交わされる場所には、
人が集まり、空気がやわらぎ、思いが動き出す気配があります。

 

言葉は、風の通り道。

人の心にも、日々の暮らしにも、静かに吹き抜けていくもの。

72種類の和菓子をつくるのは難しくても、
72通りの“言葉の風”は、自分で選ぶことができます。

かけるひと言に、心の呼吸がふっと深まるような、そんな風を吹かせていきたいですね。