2025.07.21

大暑の静かな始まり


7月23日頃は、二十四節気で「大暑(たいしょ)」

──一年で最も暑さが厳しくなる時期です。

この時季にふと目を留めたのが、七十二候のひとつ

「桐始結花(きり はじめて はなをむすぶ)」

──読んで字のごとく、「桐の花が、結ばれはじめる」。


ただしこの“花”、今すぐ咲くわけではありません。
ようやく“つぼみ”が育ち始めるタイミング。

※「結花」とは、実を結ぶのではなく、つぼみが形成され始めるという意味

──花として咲く“前段階”の静かな始まりです。

しかも、実際に咲くのは、なんと来年の春──。

 

そう知ったとき、静かな敬意が芽生えました。
桐は、じつに「長い目」で花の準備をしているのです。

ちなみにこの桐、私たちの身近にもいます。

たとえば──500円玉の裏面。
そう、日本の最高額硬貨に刻まれた、由緒正しき花。


その静けさと気品は、時を超えて、見る人の心を凛と引き締めてくれます。

 

 

 

 

「いまは、咲かない」ことの意味


桐のすごさは、その咲き方にあります。


秋に落葉し、冬のあいだ枝を研ぎ澄まし──
春が来て、ようやく「花」として開く。

つまり、「咲く前の時間」の方が圧倒的に長い。


しかもその間、誰にも気づかれず、静かに準備を積み重ねているのです。

私たちはとかく「すぐに結果を出す」ことを良しとしがちですが、
桐は、何ヶ月も前から力を蓄え、「咲くべきとき」に向けて静かに構える。

“つぼみを結ぶ”とは──


それだけの覚悟と時間をかけて、「咲く準備を始める」

という宣言なのかもしれません。

 

 

ビジネスもまた、“つぼみ”の連続です


経営とは、目に見えない“準備の時間”の積み重ねです。


若手社員の育成、新事業の構想、社内文化の変革──
どれも、一朝一夕には咲かない「つぼみ」を内包しています。

それでも私たちは、つい結果を急ぎ、
数字や形ばかりを追いかけてしまう。


咲かぬ時期に焦り、芽を摘んでしまう──そんな危うさも、経営にはあるのです。

桐のように、
咲く時期を信じて、待ち、育てるという姿勢。


目には見えない変化に心を澄ませる力。

その“静かな美しさ”こそが、
経営における真の強さであり、品格の源なのかもしれません。

 

咲かない時間にこそ、価値がある


花は、いつも咲いているわけではありません。
人も会社も、つねに結果を出し続ける必要はないはずです。

むしろ、いまはまだ形にならない努力、
誰にも知られずに続けている準備こそが──
未来のどこかで、「花」として静かに現れる。

桐は、そんな“咲かぬ時期の意味”を、黙って教えてくれます。

 

だからこそ、「大暑」のこの頃、

一年でもっとも暑く、焦りやすいこの時期に、問いかけてみませんか。

──無理をしていない?


──熱中しすぎて、見えなくなっているものは?


──本当に力を注ぐべき場所は、そこですか?

静けさの先にこそ、凛と咲く花がある。


この暑さのなかに、ひっそりと結ばれていく未来のつぼみに、あらためて目を向けてみたいものです。

 

──そう思ったとき、ふと浮かんだのが、宮本武蔵のこの言葉でした。


「勝負は一瞬の行、鍛錬は千日の行」

 

 


桐と同じように、静かに、しかし確かに力を蓄える姿に、真の強さと美しさが宿っているのかもしれません。