大暑の静かな始まり
7月23日頃は、二十四節気で「大暑(たいしょ)」
──一年で最も暑さが厳しくなる時期です。
この時季にふと目を留めたのが、七十二候のひとつ
「桐始結花(きり はじめて はなをむすぶ)」。
──読んで字のごとく、「桐の花が、結ばれはじめる」。
ただしこの“花”、今すぐ咲くわけではありません。
ようやく“つぼみ”が育ち始めるタイミング。
※「結花」とは、実を結ぶのではなく、つぼみが形成され始めるという意味
──花として咲く“前段階”の静かな始まりです。
しかも、実際に咲くのは、なんと来年の春──。
そう知ったとき、静かな敬意が芽生えました。
桐は、じつに「長い目」で花の準備をしているのです。
ちなみにこの桐、私たちの身近にもいます。
たとえば──500円玉の裏面。
そう、日本の最高額硬貨に刻まれた、由緒正しき花。
その静けさと気品は、時を超えて、見る人の心を凛と引き締めてくれます。
「いまは、咲かない」ことの意味
桐のすごさは、その咲き方にあります。
秋に落葉し、冬のあいだ枝を研ぎ澄まし──
春が来て、ようやく「花」として開く。
つまり、「咲く前の時間」の方が圧倒的に長い。
しかもその間、誰にも気づかれず、静かに準備を積み重ねているのです。
私たちはとかく「すぐに結果を出す」ことを良しとしがちですが、
桐は、何ヶ月も前から力を蓄え、「咲くべきとき」に向けて静かに構える。
“つぼみを結ぶ”とは──
それだけの覚悟と時間をかけて、「咲く準備を始める」
という宣言なのかもしれません。
ビジネスもまた、“つぼみ”の連続です
経営とは、目に見えない“準備の時間”の積み重ねです。
若手社員の育成、新事業の構想、社内文化の変革──
どれも、一朝一夕には咲かない「つぼみ」を内包しています。
それでも私たちは、つい結果を急ぎ、
数字や形ばかりを追いかけてしまう。
咲かぬ時期に焦り、芽を摘んでしまう──そんな危うさも、経営にはあるのです。
桐のように、
咲く時期を信じて、待ち、育てるという姿勢。
目には見えない変化に心を澄ませる力。
その“静かな美しさ”こそが、
経営における真の強さであり、品格の源なのかもしれません。
咲かない時間にこそ、価値がある
花は、いつも咲いているわけではありません。
人も会社も、つねに結果を出し続ける必要はないはずです。
むしろ、いまはまだ形にならない努力、
誰にも知られずに続けている準備こそが──
未来のどこかで、「花」として静かに現れる。
桐は、そんな“咲かぬ時期の意味”を、黙って教えてくれます。
だからこそ、「大暑」のこの頃、
一年でもっとも暑く、焦りやすいこの時期に、問いかけてみませんか。
──無理をしていない?
──熱中しすぎて、見えなくなっているものは?
──本当に力を注ぐべき場所は、そこですか?
静けさの先にこそ、凛と咲く花がある。
この暑さのなかに、ひっそりと結ばれていく未来のつぼみに、あらためて目を向けてみたいものです。
──そう思ったとき、ふと浮かんだのが、宮本武蔵のこの言葉でした。
「勝負は一瞬の行、鍛錬は千日の行」
桐と同じように、静かに、しかし確かに力を蓄える姿に、真の強さと美しさが宿っているのかもしれません。